パドルについて
パドルは、水を漕ぐ平面部分(ブレードと呼びます)と、パドラーが握る棒状のシャフトで構成されており、最近はネイティブ・アメリカンのカヌーで使われていたパドルに由来するシャフトの先端にグリップの付いたモデルが主流。また、ほとんどのパドルは現在も木で作られています。これは伝統を大切にすると共に、木が持つ適度なシナリがバネのように働いて楽に漕ぐことができるからとも言われます。アウトリガーカヌーのレースでは50インチ前後の長さで、ベンドシャフト(シャフトが前方向へ曲がり、ブレードに角度がついている)のパドルが人気です。シャフトが曲がっていることによってストロークの距離が伸ばせ、さらに下向きの力を推進力へ変えることもできるので、効率よいパドリングができるのです。
パドルは個人の体格や体力、チームのテクニックやフォームに合わせて、ちょうど良い長さ、ブレードサイズ、形状を選ぶ必要があります。最近は小さめのブレードを持つパドルが好まれるようです。また、カーボンファイバーなどの新素材を使った超軽量パドルも出始めていますが、レースによっては使用が禁止されている場合もあります。
パドリングの考え方
カヌーを進めるには、進行方向と反対、つまり後ろ方向のエネルギーが必要です。「エネルギー」とは「質量x移動速度」で算出されるのは御存知ですね。つまり水中でパドルを「重く、早く」動かすことで、カヌーが進むのです。パドルを「早く」動かすというのは、比較的簡単。でも、もうひとつの要素、「重く」というのは分かり難いですね。そして、これはテクニックや体の動きと大きく関わっています。まず、パドリングとは、水を引っ張ったり押したりするのではなく、パドルを上手く水中に固定して杭のように働かせ、そこへ向かってパドラー自身の体とカヌーを引き寄せる運動と考えましょう。これが「重く」パドリングするためのコツ。
体力と精神力
何キロ、何マイルもアウトリガーカヌーをパドリングし続けるには、強い肉体と精神が必要です。まず、カヌーは全身運動です。従って、高い全身持久力=心肺機能が必要。簡単に言うと体中の筋肉や器官に酸素を送り込む機能です。これは比較的軽い負荷の運動を20分以上継続することで鍛えられます。ジョギング、自転車、水泳、そしてもちろんパドリングが全身持久力を高めるのに最適です。
さらに、カヌーで重要となる筋肉としては、背筋、腹筋、広背筋が挙げられます。これらの筋肉は上体の回転や姿勢の維持をつかさどり、パドルを引っ張り寄せるパワーにもつながります。そして、足や腕の筋肉の持久力も当然ながら必要です。特に肩などは普段からトレーニングしておかないと、怪我の原因となります。
精神力については、やはり忍耐力と集中力が要求されるでしょう。ちょっとした気の弛みは、パドリングの重さに影響します。この結果、一回のストロークでつく10cmの差が、1分間では6m、1時間では360mにもなってしまうのです。
基本テクニック
ストロークは大きく分けて5つの動き(リーチアウト→キャッチ→プル→リリース→リカバリー)に分けられます。タイミングは「1」がキャッチ→プル、「2」がリリース→リカバリー、「3」がリカバリー→リーチアウトとなります。実際のレースの時は、リカバリーの動作を早くして、「1」がキャッチ→プル、「2」がリリース→リカバリー→リーチアウトとなります。また、プルの時に息を吐き、リカバリーで吸うようにすることで、自然な呼吸ができます。
リーチアウト
上体の傾きを変えずに両肩を大きくひねって、パドルをできるだけ前方へ伸ばします。背中は真っ直ぐに伸ばして胸を張ります。キャッチ
リーチアウトした位置から、素早くブレードを根元まで水に差し込みます。この際、音を立てたり、泡を立てたりするのは禁物です。カヌーのスピードへの影響が最も大きいのがキャッチですから、流れるような動きでキャッチしないと、折角のスピードを一気に殺してしまうことになります。プル
最初にひねった上体を戻しながら、同時に腹筋を使ってカヌーをパドルへ引き寄せます。下側の引き手に7割、上の押し手に3割の力を掛けます。肘は特に曲げたりしません。プルのスピードがカヌーの加速を決定付けるので、ここにパワーを集中させて下さい。リリース
自分の腿付近までカヌーをパドルに引き寄せたら、パドルがブレーキにならないよう、スムーズに引き上げます。押し手の親指をグリップに引っかけて、斜め前方へ引っ張り上げるイメージです。リリースの際も、流れるような動きでパドルを引抜かないとブレーキになってしまい、折角の加速が無駄になります。リカバリー
全身をリラックスして両肩を回転させながら、遠心力でパドルを前方へ持っていきます。シート順の役割
アウトリガーカヌーに乗込むパドラーにはそれぞれ役割があり、これが上手く噛み合うと最大のスピードが出せるのです。ここでは6人乗りのOC6でのケースをご紹介します。''シート1(EKAHI)''
STROKEとも呼びます。ステア(最後尾の舵取り)の指示に従い、また海の状況を読みながらストロークのピッチやスタイルを確定します。ピッチを絶対に崩さないテクニックと精神力が求められます。''シート2(ELUA)''
2nd STROKEとも呼びます。他のパドラーが見えず精神的な負担の大きいSTROKEをサポートし、励ましたり、アドバイスしたりします。また、STROKEと反対サイドを漕ぐ4,6がピッチやスタイルについて参考にするので、STROKEを良く見ておく必要があります。''シート3(EKOLU)''
ストロークの回数をカウントし、サイドチェンジの号令を掛けます。状況を読み、場合によっては通常の15回より早くチェンジしたり、20回以上継続したりします。''シート4(EHA)''
パワーシートとも呼ばれ、一番パワーのあるパドラーが座ります。周りの状況に惑わされること無く、最大の推進力を提供し続けます。また、カヌーのバランスに注意を払い、必要があればイアコを押さえたり、アマ側を漕いでHULIを予防します。また、水がカヌーに入った場合は、ベイラー(アカ汲み)を使って汲み出します。
''シート5(ELIMA)''
パワーシートであると同時に、ステアのサポートをするため、カヌーの舵取りの技術が必要です。さらに他のパドラーの状況に目を配り、指示についてステアにアドバイスします。
''シート6(ULI)''
最後尾でカヌーの舵を取るためステアと呼ばれ、スピードの2割はこのポジションの技術に依存します。流れ、波、風を読んでカヌーをコントロールし、また周りの状況、他艇との位置などに目を配り、コースや戦略を決定してレース運びを考えます。さらに、各パドラーの状況を把握し、的確な指示を出したり励ましたりする役割もあります。練習方法
基本的なパドルの使い方と同時に、正しい姿勢や各部位の筋肉の使い方を覚えると、疲れにくく力強いパドリングが可能となります。また、全身持久力や筋力を鍛えることで、長距離のパドリングをより楽しめることでしょう。陸上練習
まずはシャフト(柄の部分)の下からこぶし一つ分上を片手で握ります。この手を「引き手」と呼びます。次にシャフトの上にあるグリップを上から軽く握ります。この手を「押し手」と呼びます。
両手を挙げてパドルを頭上に掲げます。アウトリガーカヌーのパドルにはベンドと呼ばれる反りがありますので、ブレードが上へ向かって反っているように持ちましょう。
両腕の力を抜いて軽く伸ばし、パドルを水平にしたまま胸の前へ持ってきます。
両足を踏ん張って、1-2のカウントに合せて上半身を左右に回します。
慣れてきたら、引き手を下に下げ、パドルを斜め45度に構えた状態で同じように上半身を左右に回します。
押し手を額の高さに上げ、パドルを垂直に構えて上半身を左右に回します。
HUT(ハッ)の号令が掛かったら、次のパドリングでHO(ホー)と声を合せます。
押し手を離し、引き手の下を掴みます。
押し手と引き手を入れ替えて、パドルの向きを反対にします。
リズムを崩さずパドリングを続けます。
カヌーに座って
前を向いてカヌーに座ります。脚を開いて、膝でカヌーに体を固定します。
パドルを上下逆に持って、頭上へ掲げます。
そのまま上体を前へ倒します。
パドルを徐々に立てていきます。
押し手の腕を軽く曲げて、額の前へ持って行きます。
基本姿勢の出来上がり。
1のカウントで引き手をゆっくり後へ引き寄せます。
2のカウントで、押し手の親指が前を向くように押し手を捻ります。
パドルのブレードが水面と並行になるようにします。
3のカウントでパドルを前へ持っていき、基本姿勢に戻ります。
HUT(ハッ)の号令が掛かったら、次のパドリングでHO(ホー)と声を合せます。
押し手を離し、引き手の下を掴みます。
押し手と引き手を入れ替えて、パドルの向きを反対にします。
リズムを崩さずパドリングを続けます。
実際にパドリングして
シート1は左、シート2は右、シート3は左という感じで左右交互にパドルを構えます。IMUA(イムア)の号令と共に、1-2-3のリズムでゆっくりとパドリングします。
シート3は心の中で回数を数え、15回目にHUTの号令をかけます。
16回目に全員でHOと声を合せます。
直ぐにサイドを入れ替えてパドリングを続けます。
慣れてきたら徐々にスピードを上げます。
AMA(アマ)の号令でパドリングを止めずに全員一斉にアマ側(左)へ体重を掛けます。
LAWA(ラバー)の号令でパドルを止めます。